井上荒野
高1の娘が帰ってこないと妻から連絡があったのは、間が悪いことに愛人宅で、まさに事をなそうとしていたときだった。おそらくは家出だろうと高をくくり、妻ほど大げさに心配しないのは、前日娘を叱責したことと、娘の部屋で見つけたもののためだ。それゆえ娘の現在よりも気になるのは、自分の世間体と愛人のことだった。娘の家出先はどこなのか、期間中とその後について、全容とそれぞれの思惑が、もうひとりの語り手からも立体的に描かれる。